自由を奪われた男の主張

最寄駅から我家までの道のりを徒歩で計測すると、ゆうに25分は必要だ。駅の改札口を出た瞬間にスマホをチェックする習慣が身についたのは「駅前のお店で◯◯買ってきてね」という”お願いのような命令”メールの確認を怠ったことで、この道のりを1.5往復させられた体験があったからだ。

自宅に到着し、忘れたことを指摘され、さらに駅まで戻る。指定品を購入し同じ帰路を再び歩くと「25×3=75分」。買い物時間を入れるとプラス10分で1時間25分もの仕事を本業後にしたことになるわけだ。これだけの時間を歩くということは、小さな山なら山頂まで登りきれるほどの時間だ。ウィークディにこんなひと山登れるほどの時間を使っている場合ではない。ただでさえ疲れが抜けないオサーンが1時間25分も歩くなんてアンビリーバボーだ。

そこで、手に入れたのが駅遠庶民の味方「自転車」だ。私が選んだのは俗に言う”ミニベロ”というヤツで、20インチのタイヤが装着された小さなものだ。軽く、取り回しも良く、見た目もスタイリッシュで快適なこのミニベロは、自転車好きなら誰でも知っている有名なメーカーのもの。そのスタイリングが気に入ってポチった。

これを手にしてから、駅前で買い物を忘れてしまっても喪失感に苛まれることがなくなった。さらにバスの運行時間に縛られず自由に「駅 to 自宅」を行き来できる。目前で停留所から発車するバスを憎らしく思う必要もなければ、そのの時間に合わせる屈辱感もない。これが自由というヤツか!。自由は素晴らしい!

しかし、そんな快適な自転車生活も雨が降ると台無しだ。傘をさして片手運転で自転車に乗るのは危険だ。タイヤが巻き上げる水しぶきがスラックスの裾を程よく濡らし、カバンや上着も雨にまみれるのは大変不快極だ。ま、雨の日は乗らなければいいのだが。

そんな快適生活を続けていたある日、前触れなくタイヤがパンクした。なにか鋭起なものでも踏んでしまったか…。これでは駅まで乗っていくことは不可能だ。乗っていくどころか駅まで押し歩いていく必要がある。前の日から天気予報で「晴れ」を確認していただけに、自由を剥奪された気分だ。おぉ神よ!なんということだ!なにゆえ私から自由を奪うのだ!

私は「駅前のお店で◯◯買ってきてね」という”お願いのような命令”を果たさねばならないのに。この使命を果たすための自由を奪うなんて許せぬぞ!

シェアする

フォローする