スーツパンツのボタンが取れかかっている。ウエストのところ(ジッパーの上)、ちょうどベルトのバックルが収まる部分のボタンだ。糸が伸びでんでん太鼓のように「ぷらーん」とだらしなくボタンが垂れている。毎朝スーツに着替える時に気づくのだが、帰宅すると完全に失念しておりこのループが今日で6回目。
幸いそれほど目につく部位でなく、相手に不快を感じさせることもないので「まぁいいか」と緊急性を感じていないことから、きっと今日も一日の終わりにはこのことを忘れてしまうのだろう。そしてまた数日後、同じことを思うのだ。全く建設的でない思考の繰り返しと我ながら嫌悪感を覚える。
毎度同じことの繰り返しに慣れると、いつもと違う出来事がストレスとなり、その対処に戸惑うことが多くなる(これぞ社畜)。日常をフレキシブルに行動したいと願いながらも、実際にコトが起こると困惑するのだから無い物ねだりもいいとこだ。何よりスーツパンツのボタンから話が広がるも、リーマンのストレスに落ち着くなんて、つまらない日常しか送っていない証拠だな。
こんな自分を打破するため、手芸屋さんにでも寄って帰ろうかと計画を立てた。日常から少し脱線することで、何か事件が起きるかもしれない。その事件に大人の態度で対処したいものだ。もしかすると、巨乳の手芸店員さんと仲良くなれる場面に出くわすかもしれないし、手芸屋さんの前に倒れていたお婆さんを助けたら実はそのお婆さんは大企業の社長さんで…なんて話があるかもしれない。
日常のルートから少し外れると新しい何かが見つかるかもしれない。なんだかワンダーな気分じゃ。よし!やってみよう!
と普段から現実逃避用に妄想しているストーリーを頭の中で再生し、今日もいつも通りの帰路に着く。