想像力と現実のハザマでもがくクリエイターの話

唐突に襲われた。「鉄道車両の搭乗口ドアは故障などで走行中に開いてしまうことはないのか?」という不安。私は今、満員電車に搭乗している。

駅のホームには人が溢れており(多分電車が何らかの都合で遅れていたもよう)車両がホームに到着するや否や通勤・通学、その他の目的を持つ人の群れが慌ただしく蠢き出す。こんな状態の通勤は車両に乗り込むだけで一苦労で、何本かやり過ごさなければならない時もあるくらいだ。(こんなことにも苛立たないことが社畜の証)そんな搭乗シーンであったため、群衆の束に巻き込まれた状態で自分の意思とは関係なく車両に押し込まれた。私は今、満員電車に搭乗している。

どこかの扉で”挟まれた何か”を離すため、開いたり閉じたりを何度か繰り返していた搭乗口のドアは、今はしっかりその口を真一文字に閉じている。走行の振動と対面車両との交差で受ける風圧で、細かく素早い振動を起こすこのドアと群衆に挟まれる形で搭乗している私であるが、ふと文頭の疑問が頭に浮かんだ。「鉄道車両の搭乗口ドアは故障などで走行中に開くことはないのか?」過去にそんな事故の報道はなかったかと記憶を辿るが定かではない。扉の隙間から吹き入れるかすかな走行風を感じながら「もしドアが開いたらどうしよう」と悪寒が走る。私は今、不安と闘っている。

不安が的中した場合に備え、自身の行動をシミュレーション&確認しておく。最優先は身の安全を確保することだが、これは研ぎ澄まされた反射神経で搭乗口の側面に装着された手摺りに摑まることで対応しよう。周辺の人に藁をも掴む思いでしがみ付いては束になって放り出されるのがオチだ。手摺りまでの距離をこっそりと確かめる。周辺は人に囲まれてはいるが、手摺の一部は視界にとらえることができ届かない距離ではない。有事となれば”火事場のなんとか”でしがみ付けば何とか放り出されずに済むだろう。私は今、頭の中で状況を分析している。

あとはタイミングだ。遅ければ車外へ放り出されるし、早ければ後発に押しやられる可能性もある。試行することはできない行動を頭の中で何度もイメージする。これは自分がどう動くかだけでなく周囲の人間の動きも結果に大きく影響する。私は今、周囲の人間を分析している。

目の前のいかにもトロそうなリーマンは、ビックリしたまま何もできずに放り出されるタイプだろう。その奥のメガネ女子もそうだ。隣のOL風は人を蹴り落としてでも自分が助かりたいタイプと見て、初動の肘鉄をかわせるように体位を変えておこうか。大きなリュックを背負ったままで気遣いが足りない後ろの学生風は、申し訳ないが私が生き延びるために犠牲になってもらう。私は今、頭の中で状況を分析している。

と次の瞬間、大きな振動と人々の重心が一方向に傾く圧力に襲われた!なに!? 予知的中!? 想像通りの出来事が起こった!? とつぜん扉が開いた!心臓が高鳴りさっきまで頭の中で繰り返していたイメージを実行に移そうと試みるも、いざとなると体がうごかない。ナンテコッタ!さらに群衆の流れに逆らえず体が持って行かれる。このままじゃヤバい!と思った瞬間、車内から放り出された。アッ!自分の無力さに命の果敢なさを感じた瞬間、視界が開けた。私は今、駅のホームに立っている。

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