「ヒーローになどなれない」という現実を知ったときが「大人」のはじまり

ドラマなどでよく見かける場面─── 「お客様の中でお医者さまはいらっしゃいますか!?」という機内の緊迫した状況。

もし私が医者でこの場面に出くわしたらどうするか─── 。周囲の縋るような雰囲気の中、さっそうと手を差し伸べる”マメな医師”。そして、的確な指示をCAらに要求し、人命救助を果たす───。瞬間的ながらその場のヒーロー。その夜はCAとベットを共にすることだろう。

そんな卑猥な想像を膨らませるとともに股間も膨らませている私であるが、実際は間違いなく「寝たふり」を選択する。股間など膨らまない、膨らませない─── 。それどころかビビりまくって縮こまる。

「なぜ!?」なんて野暮なことを聞く人間は、もはやこの平成の世には存在しないことと思うが、あえてひとこと「助ける自信がない」─── である。40オーバーリーマン風情が考えるごくごく一般的でスタンダードな心情だ。

専門的な勉強と経験を積みあげ、人から「先生」と呼ばれる医師ながらも「助ける自信がない」という考えに行き着くのは、様々なビジネスシーンのなかで培われたリーマンオサーンの経験から─── 。あらゆる分野の業種において、細分化された工程が、何かを完成するプロセスにおいて「自分一人(ワンストップ)で物事を完結させることが出来ない」という事態になってしまっているメイドインジャパンの真実。

複雑化した工程は、本来、繊細な注意力を要求されず大雑把なもので問題ない作業であっても、それを専門とする”お局様”的な作業者が、あたかも最重要工程のごとく複雑怪奇な作業工程に磨き上げてくれる。起こりもしない仮説を唱え、そうなったら一大事!我々の存続にかかわる!などと警笛を鳴らす。

日本人の誇れる「職人気質」が、プラスに働くことなく表面化され、構築されることでダメになっていく典型的な流れだ。そんな風潮が蔓延すれば、もうその流れは止められない─── 。各工程が職人としてのこだわりを見せはじめ、作業工程の複雑化がはじまる。そして、これにより作業開始から完成までの全ての工程を遂行できる人材が居なくなり、ひとりで完結できるものが無くなっていくというわけ。

故に「機内にお医者さんが一人居たところで、なにも完結することはできない」というのが実際なのですハイ。内科、外科のそれぞれの専門的な医師がいて、検査器具が揃っており、検査結果を分析するデータがあってはじめて患者に向き合えるということ。

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ノートPCのバッテリーが空になった瞬間に、「あなたの役目は”終了”ね───」と雰囲気を作ってくれたクライアントさんの心遣いは ”正しかった” のか?を気にしながらも、ラーメン屋で、注文を待ちながら調理場に目をやり、麺を茹でる人、スープを煮込む人、どんぶりに具材を盛り付ける人を発見し、自分の工程以外では何もせず腰に手を当て立ちすくむ各者に、自身をダブらせた瞬間の思考。

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